年: 2018年

ウメボシあり〼

 「写真展・知られざる真鶴の海」、好評いただいています。来場いただいたみなさま、どうもありがとうございます。貝博リピーターの方はすでにお気づきかと思うのですが…この写真展、少しづつ変化しています。先日フロアに登場したのは、実物大のダイバー人形。

そして彼が構えるカメラの先には…ウメボシイソギンチャク。真鶴半島では県の天然記念物にも指定されているウメボシイソギンチャクですが、見たことない方も意外と多いのではないでしょうか?触手を伸ばして赤く咲き乱れる姿は見事ですよ。そして縮んだ姿はまさしく南高梅。大玉でちょっと甘めのやつ。

おもしろいことに、水槽には大きい個体しか入れなかったはずですが、いつの間にやら小さい個体が並んでいます。どうやら大きい個体が子供を産んだ模様。いや、産んだというより吐き出したというべきでしょうか。運が良ければその瞬間に立ち会えるかもしれません。

 写真展はそろそろラストランに入ります。ウメボシ君たちと真鶴の海中世界、お見逃しなく!

海の巾着袋、三段活用

写真の生き物、なんだかお分かりでしょうか?イソギンチャク?サンゴ?正解は…「スナギンチャク」です。真鶴の海中でもよく見かけるのですが、いわゆる「背景」になってしまう生き物ですね。このスナギンチャク、名前から想像できる通り、イソギンチャクに近い生物です。どちらも体は袋のような単純なつくりで、消化管や肛門はなく、出入り口は口だけ。シンプルですね。スナギンチャクは、いくつかの個体がくっついて群体を作っています。密集していても一匹一匹が独立しているイソギンチャクとはちょっと違いますね。また、体に砂を取り込む性質があり、イソギンチャクに比べるとザラザラした触り心地です。といっても、イソギンチャク、スナギンチャクともに、触手にはミクロの毒針が並んでいるので、むやみに触るのは避けたほうが無難でしょう。

スナギンチャク(撮影地:真鶴 岩)
ウメボシイソギンチャク(撮影地:真鶴 三ツ石海岸)

スナギンチャクに続いて、こちらは「ハナギンチャク」。美しいですね。ハナギンチャクは群体にならない独立型です。大きな特徴は自分の粘液で棲管(せいかん)を作ること。イソギンチャクは足の吸盤で岩などにくっついていますが、ハナギンチャクは砂地でマイホーム=棲管を作って暮らしており、ビックリさせると棲管にひっこんでしまいます。

ハナギンチャク(撮影地:沖縄)

イソギンチャク、スナギンチャク、ハナギンチャク。海にはいろいろな巾着がありますね。生物分類学では、この3つはそれぞれ目(もく)に該当します。哺乳類で例えてみれば、サル、ネコ、ウシというレベルで異なることになります。ちなみに、サンゴ礁を作るイシサンゴも、この巾着一味に近い動物です。

スナギンチャクにハナギンチャク。耳慣れない名前の通り、人間生活には関わりが薄い生物で、研究も十分に進んでいません。しかし、あなどるなかれ。近年、スナギンチャクからは骨粗鬆症に効果が期待されている物質が発見されているのです。海の巾着一味が人類を救う日が来るのかも?調べがいのある生物と言えるでしょう。

「写真展 知られざる真鶴の海」開催中!

ブログでの報告が遅くなりましたが、現在、貝博では「写真展 知られざる真鶴の海」を開催しています。
真鶴は海の町。海辺には多くの人が訪れます。太陽を浴びてキラキラ輝く海は、誰でも見とれてしまう美しさです。さて、みなさんは、その海面の下、海中にどんな光景が広がっているかご存知ですか?そこには無数の生き物が暮らす青い世界があるのです。というわけで、この写真展では、真鶴の海の中に広がる魅惑の世界を、ダイバーによる水中写真で紹介しています。写真の被写体をちょこっとだけ紹介しますと…金色の海藻の林、ブリの群れ、漁礁を彩るソフトコーラル、巨大なマンボウ、青に溶け込むダイバーの姿…などなど。この全てが真鶴の海で撮影されたということに、誰もがビックリするはずです。真鶴の新たな一面にきっと気づかされることでしょう。ぜひご来場ください。展示期間は5月のゴールデンウィーク明けまでです。

写真展で使用している写真は、「真鶴の海の魅力を広く伝える」という趣旨に賛同してくださったダイバーの方々から、無償で提供いただいています。60名もの方が協力くださいました。心より感謝いたします。
写真は準備を手伝ってくださったサポーターズの方々です。いつもありがとうございます!

お林を歩く

先週末の土日は冬のお林を満喫してきました。「お林」は、真鶴半島の先端を覆うこんもりとした森のことで、古くから「魚付き林」として地域の人たちに大事にされています。お林は人工的に作られた森ですが、その歴史は江戸時代初期にまでさかのぼります。そのころに植えられたクロマツは樹齢300年を超える今でも健在で、後から植えられたクスノキ、自然分布のスダジイと合わせて、お林を代表する樹木御三家となっています。

土曜日は自然こどもクラブで子供たちと散策してきました。手を広げてクスノキの直径を測ったり、ドングリを探したり、一緒になって楽しみました。一生懸命キノコを探していたけど、見つかったかな?お林を抜けたら、今度は番場浦の採石場探検。昔はこんなところから人力で石を切り出していたんですね。貝博に戻る頃にはさすがにおつかれかな?と思っていましたが、みんな驚きの集中力で課題シートに取り組んでくれました。

博物館でのまとめのようす。

日曜は専門の研究者を招いて海のミュージアムでした(今回は「海」ではありませんが)。お林を歩きながら、この時期に見られる植物の特徴や、森林の遷移、植物には菌類との共生など、大変勉強になるお話を聞かせていただきました。地衣類やカメムシに異常な興味を示す参加者がいたり、ハランの根元に実を見つけたり、手を広げてクスノキの直径を測ったり…あれ、昨日もこの光景を見たような?みなさんすっかり童心に戻ってましたね。

 

ハランの実

貝博に戻ってからは本日のまとめ。参加者それぞれが、心に残ったこと、人に教えたくなったことなど意見を出し合い、地図に並べていきます。お林みどころマップの作成です。できあがったマップは近日中に貝博のエントランスホールに展示いたしますので、これからお林を歩かれる方はぜひ参考にしてください。

 

オオウミシダトウマキクリムシ

先日このブログでウミシダを紹介したところ、意外な反響があり、ニヤついている学芸員です。見栄えのする写真を並べたかいがありました。ようこそマニアック生物道の入り口へ…

さて。そんなウミシダは野外で種を見分けることが難しい生き物です。一部を除いて。簡単に認識できるウミシダといえば、写真のオオウミシダが筆頭にあげられます。全身は真っ黒(実は赤茶色ですが水中では黒く見える)、腕は10本で常にまっすぐ伸びています。腕の長さは20cmを超えることも珍しくなく、その名の通り大型のウミシダです。

さて、今日の主役はこのオオウミシダ…ではなく、そこに寄生する巻貝です。当ブログは遠藤貝類博物館のブログでございますから。寄生というとなんだかグロテスクな響きがありますが、この寄生貝・オオウミシダトウマキクリムシはたいへん可愛らしく、見つけた日には写真を撮りまくってしまうこと受け合いです。この貝はご覧のとおり美しい色をしているのですが、貝殻標本にすると濁った白一色になってしまいます。この色は、貝殻を透かして見える軟体部(貝の肉の部分と言ったらよいでしょうか)の色なんですね。かわいらしい外見の貝ですが、これに取りつかれると宿主のウミシダは元気がなくなってしまうようで、腕が折れているケースが多く見られます。宿主から栄養を奪っているのか、あるいは、貝が弱ったウミシダを選んで寄生するのかもしれません。興味深いですね。見かける頻度としては、ウミシダ20個体につき1匹ぐらいでしょうか。寄生率は高くありません…と書くつもりだったのですが、約5%だったら必ずしも低いとも言えない値ですね。

ちなみに、この長い名前はオオウミシダ・トウマキ・クリムシと区切ります。漢字では大海羊歯籐巻栗虫。籐(ラタン)を巻いたような彫刻がある殻を持つ栗虫貝でオオウミシダに寄生する、ということなんでしょうね。貝殻の写真も並べたかったのですが、この種は貝博にはまだ収蔵されていない模様でした。今後、採集できたら追記いたします。

新年のご挨拶

新年あけましておめでとうございます。みなさまにとって幸多い一年となりますことをお祈り申しあげます。

今年も貝博ではさまざまなイベントが目白押しです。今日はさっそく次のイベントの準備を進めておりました。使える貝の在庫を確認して、汚れていれば掃除して。ふと気がつけば、いつのまにかメルヘンワールドに足を踏み入れてしまっていたようです。あぶないあぶない。イベントの告知は貝博のエントランススペースにも掲示してありますので、ご来場の際はぜひご覧になってください。

こんな貝博を本年もどうぞよろしくお願いいたします。