カテゴリー: 貝のはなし

オオウミシダトウマキクリムシ

先日このブログでウミシダを紹介したところ、意外な反響があり、ニヤついている学芸員です。見栄えのする写真を並べたかいがありました。ようこそマニアック生物道の入り口へ…

さて。そんなウミシダは野外で種を見分けることが難しい生き物です。一部を除いて。簡単に認識できるウミシダといえば、写真のオオウミシダが筆頭にあげられます。全身は真っ黒(実は赤茶色ですが水中では黒く見える)、腕は10本で常にまっすぐ伸びています。腕の長さは20cmを超えることも珍しくなく、その名の通り大型のウミシダです。

さて、今日の主役はこのオオウミシダ…ではなく、そこに寄生する巻貝です。当ブログは遠藤貝類博物館のブログでございますから。寄生というとなんだかグロテスクな響きがありますが、この寄生貝・オオウミシダトウマキクリムシはたいへん可愛らしく、見つけた日には写真を撮りまくってしまうこと受け合いです。この貝はご覧のとおり美しい色をしているのですが、貝殻標本にすると濁った白一色になってしまいます。この色は、貝殻を透かして見える軟体部(貝の肉の部分と言ったらよいでしょうか)の色なんですね。かわいらしい外見の貝ですが、これに取りつかれると宿主のウミシダは元気がなくなってしまうようで、腕が折れているケースが多く見られます。宿主から栄養を奪っているのか、あるいは、貝が弱ったウミシダを選んで寄生するのかもしれません。興味深いですね。見かける頻度としては、ウミシダ20個体につき1匹ぐらいでしょうか。寄生率は高くありません…と書くつもりだったのですが、約5%だったら必ずしも低いとも言えない値ですね。

ちなみに、この長い名前はオオウミシダ・トウマキ・クリムシと区切ります。漢字では大海羊歯籐巻栗虫。籐(ラタン)を巻いたような彫刻がある殻を持つ栗虫貝でオオウミシダに寄生する、ということなんでしょうね。貝殻の写真も並べたかったのですが、この種は貝博にはまだ収蔵されていない模様でした。今後、採集できたら追記いたします。